書誌解説>「内田百輭帖」

この「大洋丸航海日誌」は深井の個人的な調査記録であるが、先般の坪野哲久調査を「1頁
要約」の形式にしたのも、郷里志賀町立図書館からの調査依頼であるし、この「書誌解説」
も「書誌年鑑」の中西さんの依頼である。個人的調査といっても、やはり他人の依頼で、人
に動かされて人は動くものだということを今更ながら痛感している。

さてその書誌解説であるが、今回ここに出すのは深井の「内田百輭帖」解説である。
漱石のお弟子のなかでは異色の人物である。その人物に魅せられて、中学生の頃から収集を
続け、時間の許す限り、百輭が「ヒマラヤ山系」と読んだ人、平山三郎の家を訪ねて、
百輭の話を聞いてきたという人の、百輭書誌の改訂増補版である。

内田百輭内田百輭帖』(森田左翫) 昭南堂書店 2005.4 493p B5
編者は中学3年の時『阿房列車』を読み百輭本に魅せられる。高校教師に百輭親友の息子と
百輭の孫がいた偶然があり、百輭本編者平山三郎を度々訪ね「百輭狂い」に拍車、神田の古
書店にも勤めた。百輭研究の基礎資料となる書誌作成を念願し、昭和61年『稿本内田百輭
品目録』、昭和63年新訂版、平成6年『書誌内田百輭帖』350頁を出版、今回はその増補改訂
版。本書構成は著作本・書影篇(50冊94種のカラー写真で最も贅沢な体裁)、著作本・書誌篇
(48冊の初出誌も記載)、編集本(81冊86種の写真と細目)、再劂本・復刻本(51冊の
写真と細目、再劂とは新組再版か)、電子図書(2冊3種の写真と細目)、全集・選集・
合著(264冊の細目)、カセット文庫(12巻細目)、個人全集・選集(5種の写真と細目)、
共著本(10冊11種の写真と細目)、視覚障害者用図書(点字と録音74点)、仮名索引(作品名
を仮名読み50音順配列し収録著書を示す異色索引)、科目索引(作品内容で分類。約170科目
にはお金、貧乏、着物、食べ物など、芥川や漱石などの人名もあり、本書誌の最大特色)、
座談会・講演一覧(座談会65回、講演6回の日時・会場記録)、執筆ノヲト(日記などからの
原稿執筆経過)、参考文献(雑誌特集号、新聞雑誌記事、ラジオ・芝居・映画・テレビなど)、
年譜33頁。付録に著書の帯、墓所、関係資料多数。あとがき「百輭との二十年」は編者ならで
はの百輭著書の書誌的解説。まことに書鬼の名が相応しい編者は、QM2などに乗船、20回以
上のクルーズ経験があり、海外公演も多い能楽森田流笛方13代目の次男。(深井人詩)
以上」