大洋丸>素馨の花<橋本徳寿

●灯火管制で細い光一と筋船窓からささいな真黒な大洋丸の船窓が一時にぱっとあかくなった。電灯であろうか、機関部はやられていないのだから、発電機は故障していないわけだ。あるいは船室に火がまわったのであろうか。いづれにしてもそれは命終の直前の一燦である。私は何かはッと胸をつかれた。船艙の火はしだいに消えて行った。浸水のために自然鎮火したのであろう。船はぱったりと灯が消えた。暗夜の海に真黒い船だ。もうしっかりと見えない。多分あれだろう、あの辺だろうと、見当をつけて目をこらしているだけだった(「素馨の花」青垣発行所1964 p17 橋本徳壽)