大洋丸>田久保英夫の小説

芥川賞作家田久保英夫の兄・田久保光太郎は「大洋丸」の厨房員だった。田久保の小説には兄の記憶が点綴されている。田久保は2001(平13)年4月14日、食道癌による動脈破裂で死去、文芸雑誌の追悼作品解説に「大洋丸」らしい船の船員が出てくる。
●処女作「埠頭にて」の主人公、調理手の江本要吉は戦争中に輸送船の乗員だったが、船は撃沈され、漂流し、海と戦い、九死に一生を得た船乗りである(「文学界」2001年7月号 p137 桂芳久)
●最初の長編小説「触媒」の中に、戦争末期、商船の乗組員になって死んだ兄のことが描かれている。主人公がこの兄の死を回想するときの屈託は、なみの戦没者を思うのとはちがう暗さがつきまとっている(「文学界」2001年7月号 p139 桶谷秀昭