大洋丸>安部屋の海

火打ち谷の峠、松林が朝露に濡れて松葉から輝く滴をおとしていた。空に入道雲の恐ろしげな黒い青い姿が、遙か向こうの山々におおいかぶさっていた。海苔巻きおにぎりを包んだ風呂敷をしっかり担ぎ直して歩き出す。初めて泳いだ安部屋(あびや)の海への熱く重い期待、あのおもいがいつまでも忘れられずに、私を縛ってきたのだ。大洋丸の航海の波しぶきが、いつも頭のなかに、沸き立っているのだった。